ワークスペースのあるインダストリアルな2戸1マンションリフォーム
マンションリフォーム 築33年 85平米
在宅ワークが当たり前になった時代のリフォーム
住まいの中に仕事場を設けるリフォームの需要が高まっていますが、今回はそんなSOHOスタイルの中でも、ワークスペースがメインとなったリフォーム事例です。
2戸1の間取りにワークスペースとLDKを2分したスケルトンリフォームを施しました。
元々お客さまが所有していた物件をオフィスとして利用するために計画を始めたのですが、『最低限の住環境だけを整えたオフィスメインのスケルトンリフォーム』といのが今回のコンセプトです。
お客さまのご要望は次のような項目です。
- オフィスメインだが住める環境にしたい
- 古いところはすべて新しくしてほしい
- 窓や壁の断熱対策をしてほしい
- インテリアはすべて一新したい
古い建物のリフォームは厳しい環境になりがちです。冬は寒く夏は暑い、そして、照明が暗くて仕事に影響がでたりすることもあります。また、設備については水回りが古くて快適に使えないという不具合もよく見られ、このような機能面でのデメリットが多いのは築古物件によくある話です。
ただ、古い建物の壁や床は経年変化による味が出ていて、何とも言えないかっこよさがあります。それ故、この味の部分に魅力を感じてあえて築年数の古い建物を好む方も多いのではないでしょうか。
『仕事場にこそ快適な環境を整えるべきだ』と、僕は考えています。そこで、機能的で快適な設備を整えることを前提に、築年数の古さがデメリットとして現れている気密性や断熱性の不安点は改善しつつも、経年変化として味が出ている壁や天井はできるだけインテリアの要素として取り入れられるような良いとこ取りをコンセプトにプランニングを進めていきました。
躯体天井をスケルトンにしてモルタルむき出しのインテリアに。
デスク上には昼白色ライトを設置。作業性も視認性も良く仕事場に最適。アーム部分は角度調整も可能で、モニターへの映り込み対策として効果的。
モニターへの映り込みや反射などがあれば都度対処できるように、3台のデスクに合わせてそれぞれ一灯のLEDバーを単独で割り当てています。
部屋全体の照度を確保するためにワークスペースについては、スポットライトの色温度を3500Kの温白色をベースに照度計画しています。LDK兼応接室は2500~2700Kの電球色をベースに計画していますが、今回ののように電球色がメインの空間と隣接していても、温白色の明かりなら違和感なく過ごせます。
最近は電球色と蛍光色が切り替えできる器具が主流になりつつありますし、無段階で色が調節できる調色機能付きのライトもあります。今回採用したLDKのペンダントライトもENDOの器具でsmartLEDZに対応しています。
調色機能については、ワークスペースだけではなく、ダイニング、リビング、キッチンなどといった、様々な用途で使う場所には最適です。家族でくつろぎたいときと子供が勉強するときでは最適な明るさが違いますよね。
照明も用途に合わせて切り替えや調節ができるように計画にしておくことが自宅で過ごす時間が長くなった現代の住まいに合った照明計画の基本だと考えています。ご自宅の照明計画にも多様性が求められるようになってきました。
収納は最低限。インテリア性を優先
住戸とは別の場所で十分なストックが確保できたため、収納スペースは最小限にとどめています。本来は専有面積の10%程度を収納スペースとして計画するのですが、今回はこの場所を見せるインテリアの要素として活用できています。
具体的には、設置した収納棚のほとんどはオープン棚とし、小物やアートプランツ(造花)をディスプレイすることでインテリアのアイキャッチとして活用しています。
壁面棚はスチールのブラケット+木板のオープン棚。インテリアをディスプレイして、見せる収納としてインテリアに活用。
また、小物の収納が必要な水回りには、スチール製の引き戸を設けました。スチール戸には厚みが3.2mmの鉄板を使用。開閉するのに重さがあるのですが、モノを見えなくするという目的は果たせています。
水回りの収納にはスチールの切り板の引き違い戸を設置。空間全体の雰囲気に合わせて特注で製作している。
パントリーとして活用するキッチン横のスペースは、壁に引き込んで全面開放可能なスチールフェンス製の2枚引き込み戸を設置しています。フェンス越しに内部は見えるのですが、庫内のダウンライトを付ければショーケース風に、照明を消せば仕切った空間は存在感を消せます。引き戸自体にデザイン的な特徴があるため、インテリアとしても工業的な雰囲気作りにプラスになるように計画しました。
パントリー収納にはスチールフェンスの2枚引き込み戸を設置。普段はフルオープンが可能。
パントリー収納を古オープンした状態。2枚引き込み戸は壁に収まるサイズで別注製作し、重量用のハンガーレールで吊り下げている。
天井まで背があるハイドアは壁のような使い勝手ができます。普段は全開して使いやすい状態に、来客時は閉めれば内部を隠せます。目的に合わせてドアを移動させて壁のような使い方ができるのがハイドアのいいところです。
SOHOに最適。2戸1(ニコイチ)の魅力
今回の物件は2つの住戸区画が1箇所のドアを通じて1つにつながっている2戸1の間取り。1つあたりの専有面積は40平米ちょっと。1つだと手狭に感じてしまう広さですが、2つ合わせると85平米になり、ファミリー用の住まいとしても十分な面積を確保できています。
リフォーム前の図面。それぞれの住戸が2DKの間取りになっていた。
この特徴的な間取りは、SOHOのように自宅にワークスペースを設けたいという方には最適です。
- ドア1つで職場にアクセスできる
- オンオフを区別しやすい
- それぞれに玄関入口がある
- それぞれに水回り設備が設置できる
2戸1の場合は、物件の特性上あまり大きな住戸をつなげることはないと思いますので、比較的それぞれが小さめの住戸のケースが多いです。ですので、個人や少人数でお仕事をしている方などにはちょうど良い大きさを確保できます。
今回の物件だと約40平米=約12坪くらいですので、例えばネイルサロンやマッサージサロン、美容室などにも良いですし、士業系の事務所としても十分利用できる広さだと思います。他にも動画配信用の撮影スタジオやジムトレーニング用のスタジオなどのスペースを自宅に併設したいという方にも使いやすい物件なんじゃないかと思います。
ただし、物件の管理規約によっては事務所や店舗としての利用ができない建物もありますので、2戸1の物件をSOHOとして利用する場合は事前に確認しておくことが大切です。
リフォーム後の間取り図。間仕切り壁の配置を大きく変更し、それぞれの住戸をLDKとワークスペースに使い分けている。
今回のリフォームでのゾーニングプランは、LDKとして利用する場所と、ワークスペースとして利用する場所の2つに大きく分け、それぞれに必要なサニタリースペースを配置しました。寝室として利用する部屋は、ワークスペースの奥に隣接させています。
トイレはどちらにも1つずつ設置し、お風呂と洗面化粧台は寝室を設けたワークスペース側に設けています。メイン玄関はワークスペース側としていますが、来客時はLDKを応接室として使用するため、それぞれの玄関をそのまま活用できるようにし、必要に応じて使い分けが可能です。
LDKは間仕切りをなくしてビックワンルームにしました。玄関が丸見えになっていますが、こちらの玄関は普段使いしないので、プライバシーを損なうこともありません。
断熱対策は開口部が大切
開口部のある躯体壁はスタイロの断熱壁を躯体内側に新しく設置。窓に関しては管理組合の了承を得て取替可能な物件であったため、ペアガラスのサッシに新調しています。
既存窓はシングルガラスの古いアルミサッシ(写真左)。今回のリフォームでペアガラスのサッシに入れ替えた(写真右がリフォーム後)
築古マンションのリフォームでは、冬の寒さ対策が重要です。室内の温かい空気は窓ガラスから熱を奪われてしまいますので、今回のように窓が交換できる場合はペアガラスかトリプルガラスの窓に交換するなどして、断熱対策をしておくことが重要です。
もし、サッシの交換が認められない場合でも、インナーサッシを設置する等の寒さ対策はいくつかあります。環境によってはインナーサッシを設置せず、ハニカムスクリーンで対応しているケースもありますので、ご興味のある方はハニカムスクリーンについて書いたこちらの記事もご覧になってください。→ハニカムスクリーン 4社比較してわかったデメリット
寒さ対策は快適な住まいの環境を整えるために大切な項目です。インナーサッシだけなら大がかりなリフォームをせずとも設置できることが多いので、築古マンションにお住まいで冬の寒さを解消したいという方はぜひご検討してみてください。
床暖房用無垢材フローリングの注意点
今回のリフォームでは表面に無垢単板を使用したアルベロプロの複合フローリングを採用しています。
床暖対応のオーク無垢材フローリングの現物サンプル。表面は様々なエージング加工を施している。
インダストリアルテイストの内装イメージに合わせるために、節有、パテ埋めの跡、うずくり加工、帯鋸加工、ハンドプレーン加工、プレナー&ハンドスクラッチ加工、エッジの部分の面に使い古した加工を施すなど、あらゆるエージング加工を加えてもらった特注品です。材料はオーク材。使い古したような質感になるようにエージング塗装を施しています。
床暖房でも使える無垢材のフローリングはそんなに多くありません。また床暖房に使えるものとなると、表面に単板を張っている複合タイプになりますが、高温での使用が難しいので、使用中の温度が制限されてしまうのが一般的です。
無垢材そのものは足触りが良いため、他のフロア材と比較すると温かく感じられる点がメリットですが、天然素材ゆえ湿気や乾燥に弱く、施工後にそれらの影響を受けてサイズが縮んだり、ゆがんだり、反ったり、ねじれたりすることがあります。このようにデメリットがいつくかあるものの、本物の素材を使ったリフォームは、空間の質がグッとよくなります。
無垢材のデメリットはメンテナンスをしっかり続けていくことで概ね対処できるので、こだわった素材をリフォームに取り入れられるように、予算を調整しながらご提案しています。
英語の文字もインテリアの一要素
インダストリルなインテリアの雰囲気を演出するために、要所に英字のサインやディスプレイのアートポスターを取り入れています。
室名表示をステンシル風フォントでカッティングシート文字にして設置。
トビラの室名表示はその一つです。2戸1を大きく2分割しているドアには、ワークスペースへの立ち入り禁止を示すSTAFF ONLYの文言を、トイレと洗面脱衣室へのドアにもそれぞれの室名をカッティングシートで表示。カッティングシートはステンシル風のフォントを使用して作成しています。
室内のインテリアとしてディスプレイしているのは、1960年代に実際に使用されていたドナルド・ジャッドのデザインポスター。
インテリアとして飾っているアートには、活字でデザインされたポスターを数点選んでディスプレイしています。1960年代にドナルド・ジャッドの展覧会用に制作されたポスターは、戦後当時の近代主義アメリカを象徴するミニマルアートです。復刻版ではあるものの、文字そのものがアートとして力強く、そして存在感があります。トイレにディスプレイした黄色のポスターも同じくドナルド・ジャッドのもの。
ヤン・ファン・トールンのポスターを壁面収納棚の上にディスプレイ。こちらも1960年代に活躍したグラフィックデザイナーの製作したモノ。
大きい縦組みのポスターはヤン・ファン・トールン(Jan van Toorn)です。ヤン・ファン・トールンはオランダのグラフィックデザイナーで、ドナルド・ジャッドと同年代に活躍していた人物。こちらも文字と簡単な罫線のみの構成でシンプルなデザインですが、メッセージ性のあるアート作品です。
モルタルによく合う古材
モルタルメインの内装仕上げの中にアクセントとして利用したのはビンテージの古材。壁と天井の一部に貼っています。
壁面と天井に貼った古材の現物カットサンプル。アメリカで防風フェンスとして実際に使用され経年変化したビンテージ材を使用している。
壁て天井の一部に古材を貼った状態。一枚一枚の色や厚みが違っており、それが良い表情になっている。
こちらも床材と同じくアルベロプロのグレイウッドハーフというもの。実際にアメリカでフェンスとして使用されていた材料なので、風化した表情のおかげで室内全体から古びた雰囲気を感じることができています。
メインの造作棚には古材を使用せず、パインのはぎ材に古材の色目合わせのエージング塗装をしています。
杉材で造作した棚。塗装は水性のエージング塗装で仕上げた。
これは古材特有の表面の凸凹やササクレなどが、家具としては使いにくくなることがあるので、古材のデメリットを考慮したためです。調色をした茶系の水性塗料をシャバシャバの状態で拭き取りながら塗装し、最後はクリアで仕上げています。
基本的にモルタルに合わない木の色はないと思うのですが、インテリアのテイストによって、木製家具や板壁をどのような色にするかは大切な要素です。MASAKISEKKEIでは、インテリアのテイストをお客様と共有するため、事前に3DCGパースを作成してイメージをお伝えするようにしています。
スチール製のインテリアあれこれ
インダストリアルなテイストに合わせて、室内の素材にはスチール製のアイテムを各所に取り入れています。
棚受けのブラケット金物やハンガーパイプは製品としてTOOLBOXや上手工作所で購入していますが、今回の物件に合わせてオーダーで制作したものがいくつかあります。
オーダーで制作したもの
- 家電収納用の2枚引き込み戸
- 休憩室用のパーティションパネル
- 収納家具用の板トビラ
- スイッチの目隠し板トビラ
- 洗面化粧台の下台フレーム
- ミラーのフレーム
玄関の姿見鏡と手洗台のミラーのフレームはスチールのLアングルで作ったもの。ラフに仕上げた溶接跡もインテリアのディティールとして空間全体の雰囲気に違和感なく溶け込んでいます。
スチールフェンスを使って作ったパーティション。
スイッチの目隠し板はスライド開閉式。手洗シンクの下台はスチールの角パイプで製作している。